- ⚡ しこりが3〜4週間以上続いている
- ⚡ 急に大きくなっている気がする
- ⚡ 発熱や痛みも出てきた
- ⚡ 何科に行けばいいかわからない
目次
- 乳様突起とはどこにある?基本的な解剖学の知識
- 乳様突起のしこりが生じる主な原因一覧
- リンパ節の腫れ(リンパ節腫脹)
- 粉瘤(アテローム)
- 脂肪腫
- 乳様突起炎(にゅうようとっきえん)
- 外耳炎・中耳炎との関連
- 耳下腺・唾液腺の腫れ
- 悪性リンパ腫や転移性リンパ節腫大の可能性
- 自分でできるセルフチェックの方法
- 受診すべき科と診断の流れ
- 治療法の概要
- 日常生活での注意点と予防
- まとめ
💡 この記事のポイント
乳様突起(耳後方の骨突起)のしこりは、リンパ節腫脹・粉瘤・脂肪腫・乳様突起炎・悪性疾患など原因が多岐にわたる。3〜4週間以上続く・急速増大・発熱を伴う場合は耳鼻咽喉科への早期受診が推奨される。
💡 1. 乳様突起とはどこにある?基本的な解剖学の知識
乳様突起(mastoid process)とは、頭蓋骨を構成する側頭骨の一部であり、耳の後ろ下方に位置する骨の突起部分です。指で耳を少し後ろに引き、その真後ろあたりを触れると、硬くて丸みのある骨のでっぱりを感じることができます。これが乳様突起です。英語で「mastoid(マストイド)」とも呼ばれ、ギリシャ語で「乳房に似た形」を意味する言葉が語源となっています。
乳様突起の内部は「乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)」と呼ばれる小さな空気の部屋(蜂の巣状の空洞)が無数に存在しており、中耳とつながっています。そのため、中耳炎が進行すると乳突蜂巣にまで炎症が波及し、いわゆる「乳様突起炎」を引き起こすことがあります。
乳様突起の周囲には以下のような重要な構造が存在しています。
- 後耳介リンパ節(耳の後ろ側にあるリンパ節)
- 胸鎖乳突筋(頭部と頸部をつなぐ大きな筋肉)
- 顔面神経の一部
- 後頭動脈・静脈
- 皮下脂肪・皮膚組織
このように多くの組織が密集しているため、しこりが生じる原因も非常に多岐にわたります。単純な皮膚のできものから、リンパ節の炎症、骨の感染症、さらには腫瘍性疾患まで、さまざまな可能性を念頭に置いて評価することが重要です。
Q. 乳様突起とはどこにある骨ですか?
乳様突起は耳の後ろ下方に位置する側頭骨の突起部分です。内部には「乳突蜂巣」と呼ばれる中耳とつながる空気の部屋が存在します。周囲には後耳介リンパ節・顔面神経・耳下腺などの重要な組織が密集しており、しこりの原因が多岐にわたる解剖学的特徴があります。
📌 2. 乳様突起のしこりが生じる主な原因一覧
乳様突起の部位にしこりを感じた場合、考えられる原因は一つではありません。年齢・性別・既往歴・しこりの性状(硬さ・動き・痛みの有無など)によって、原因疾患はある程度絞り込むことができます。以下では代表的な原因を順に解説します。
なお、しこりの原因として最も多いのはリンパ節の腫れや皮膚由来のできものですが、まれに骨炎や悪性疾患が背景にある場合もあります。「しこりがある」という事実だけで過度に不安になる必要はありませんが、自己判断での放置は禁物です。
✨ 3. リンパ節の腫れ(リンパ節腫脹)
乳様突起の後ろ側から頸部にかけては「後耳介リンパ節」および「後頭リンパ節」と呼ばれるリンパ節が存在しています。これらのリンパ節は、頭皮・耳介・耳の後ろ側の皮膚から流れてくるリンパ液を受け取る役割を担っています。
リンパ節は細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入したとき、免疫応答として腫れることがあります。これをリンパ節腫脹(または反応性リンパ節腫脹)と呼びます。
後耳介リンパ節が腫脹する代表的な原因としては、以下のものが挙げられます。
- 頭皮や耳介周囲の皮膚感染(毛嚢炎・とびひ・蜂窩織炎など)
- 外耳炎・中耳炎
- 風疹(三日はしか):後耳介リンパ節腫大は風疹の典型的な症状の一つ
- 伝染性単核球症(EBウイルス感染)
- 猫ひっかき病(バルトネラ菌感染)
- 歯科疾患・口腔内感染
- 上気道炎(いわゆるかぜ)
反応性リンパ節腫脹の場合、しこりは通常1〜2センチ程度で柔らかく、押すと痛みを感じることが多いのが特徴です。原因となる感染症が治癒すれば、多くの場合はリンパ節の腫れも自然に改善します。ただし、数週間以上腫れが引かない、急速に増大する、痛みがない、複数のリンパ節が同時に腫れているなどの場合は、精密検査が必要です。
特に風疹の場合、後耳介リンパ節・後頭リンパ節・頸部リンパ節が広く腫れ、発疹・発熱とともに出現するのが典型的なパターンです。妊娠中の方が風疹に感染すると胎児に深刻な影響を及ぼすことがあるため、妊娠中または妊娠の可能性がある方は特に注意が必要です。
🔍 4. 粉瘤(アテローム)
粉瘤(ふんりゅう)は「アテローム」とも呼ばれる良性の嚢腫(のうしゅ)で、皮膚の下に皮脂や角質などが袋状に蓄積したものです。体のどこにでも生じますが、耳の後ろや首・背中・顔面などに比較的多く見られます。
粉瘤の特徴としては以下の点が挙げられます。
- 皮膚と一体化して動きにくいことが多い
- 表面の中央部分に小さな黒い点(毛孔)が見えることがある
- 押すと不快な臭いのある白〜黄色のドロッとした内容物が出ることがある
- 通常は痛みがないが、細菌感染を起こすと赤く腫れて痛みが生じる(炎症性粉瘤)
- 自然に消えることはなく、放置すると徐々に大きくなる
粉瘤は良性疾患ですが、繰り返し感染・炎症を起こすことがあるため、外科的切除が推奨されます。炎症を起こした状態(炎症性粉瘤)では切除ではなく、まず切開排膿(切開して膿を出す処置)を行い、炎症が落ち着いてから改めて根治的な手術を行うのが一般的な治療の流れです。
耳の後ろの粉瘤は、自分では見えにくい場所にあることが多く、気づかないうちに大きくなっていたり、感染して急に痛みと腫れが出現したりすることもあります。粉瘤を疑う場合は皮膚科または形成外科を受診することをお勧めします。
Q. 乳様突起炎の症状と危険性は?
乳様突起炎は、耳後方の骨部分の発赤・腫れ・圧痛、耳が前方に突き出る外観変化、発熱、耳漏などが主な症状です。中耳炎の合併症として発症することが多く、重症化すると髄膜炎・顔面神経麻痺・内耳炎による難聴などの重篤な合併症を引き起こす可能性があり、速やかな耳鼻咽喉科受診が必要です。
💪 5. 脂肪腫
脂肪腫(しぼうしゅ)は、皮膚の下の脂肪組織が増殖してできる良性腫瘍の一種です。全身のあらゆる部位に発生しますが、頸部・後頭部・耳の後ろ側にもしばしば見られます。
脂肪腫の一般的な特徴は以下のとおりです。
- 柔らかく、弾力性がある(ゴムのような感触)
- 境界が比較的明瞭で、皮膚の下を自由に動かせることが多い
- 通常は無痛
- ゆっくりと増大し、急激な変化は示さないことが多い
- 大きさは数ミリから数センチ以上まで様々
脂肪腫は悪性化することはほとんどなく、生命を脅かす疾患ではありません。ただし、見た目や触り心地で脂肪腫と確信することは難しく、超音波検査やMRI検査による画像診断が必要になることもあります。また、急速に増大した場合や硬さが変化した場合は、悪性脂肪肉腫などとの鑑別が必要になります。
治療は多くの場合、経過観察または外科的切除です。日常生活に支障がない場合や美容的な問題がない場合は、すぐに切除せずに定期的に経過観察することもあります。
🎯 6. 乳様突起炎(にゅうようとっきえん)
乳様突起炎とは、乳突蜂巣(乳様突起内部の空洞)に細菌感染が起こり、骨周囲の組織に炎症が広がった状態を指します。中耳炎の合併症として発症することが最も多く、特に急性中耳炎を適切に治療しなかった場合や、抗菌薬が効きにくい細菌に感染した場合に起こりやすいとされています。
乳様突起炎の代表的な症状は以下のとおりです。
- 乳様突起(耳の後ろの骨部分)の発赤・腫脹・圧痛
- 耳介が前方に押し出されるような外観(耳が前に突き出て見える)
- 発熱
- 耳の痛み・耳漏(耳だれ)
- 頭痛
- 乳様突起後方に波動(膿が溜まっている感触)を触れる場合がある
乳様突起炎は細菌性の感染症であり、適切な抗菌薬治療が必要です。また、骨炎が進行したり、膿が周囲に広がったりすると、以下のような重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
- 頭蓋内への炎症波及(髄膜炎・脳膿瘍)
- 顔面神経麻痺
- 内耳炎による難聴・めまい
- 頸部膿瘍(ベゾルト膿瘍)
- 横静脈洞血栓症
これらの合併症はいずれも生命に関わる可能性があるため、乳様突起炎が疑われる症状が出た場合は速やかに耳鼻咽喉科を受診することが不可欠です。治療は入院のうえ、点滴による抗菌薬投与が基本となり、骨炎が進行している場合や保存的治療に反応しない場合は、乳突削開術(乳様突起の骨を削って病巣を除去する手術)が行われることもあります。
💡 7. 外耳炎・中耳炎との関連
外耳炎や中耳炎は耳の後ろのしこりや腫れと密接に関連することがあります。外耳炎(特に悪性外耳道炎)や急性中耳炎が重症化・慢性化すると、炎症が周囲の組織に波及してリンパ節が腫れたり、乳突蜂巣に炎症が及んだりすることがあります。
外耳炎は耳の穴から鼓膜手前の外耳道に生じる炎症で、原因は細菌・真菌・アレルギーなど様々です。耳掻きのしすぎや水が長時間残ることなどが誘因となることが多く、耳の痛み・かゆみ・耳漏・聴力低下などの症状が現れます。
中耳炎は鼓膜の奥にある中耳腔に炎症が起こる疾患で、急性中耳炎・滲出性中耳炎・慢性中耳炎など種類があります。特に急性中耳炎は乳幼児に多く、耳の痛み・発熱・耳漏が典型的な症状です。放置すると前述のとおり乳様突起炎に進展するリスクがあります。
耳の後ろのしこりや腫れに加えて、耳の痛み・かゆみ・耳漏・聴力低下・発熱などの耳の症状を伴っている場合は、外耳炎や中耳炎の合併・関連を考えて耳鼻咽喉科を受診することが重要です。
Q. 粉瘤は放置しても自然に治りますか?
粉瘤(アテローム)は自然に消えることはなく、放置すると徐々に大きくなる傾向があります。細菌感染を起こすと赤く腫れて強い痛みを伴う「炎症性粉瘤」に進行することもあります。根治には袋ごと摘出する外科的切除が必要で、耳の後ろは自分で確認しにくいため、気づいたら早めに皮膚科や形成外科を受診することが推奨されます。

📌 8. 耳下腺・唾液腺の腫れ
乳様突起のすぐ前方には「耳下腺(じかせん)」という唾液腺が位置しており、耳下腺の腫れが乳様突起付近のしこりとして感じられることがあります。
耳下腺が腫れる原因としては以下のものがあります。
- 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ):ムンプスウイルスによる感染症。両側性(両耳の前後)に腫れることが多い
- 細菌性耳下腺炎:脱水状態や口腔内衛生不良が誘因となることがある
- 唾液腺結石(唾石症):唾液の通り道に石が詰まることで腫れや痛みが生じる
- 耳下腺腫瘍:良性(多形腺腫など)・悪性(耳下腺癌など)の腫瘍
- シェーグレン症候群:自己免疫疾患による唾液腺の腫れ
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)は、ムンプスウイルスによる感染症で、主に小児期に発症しますが成人でも罹患することがあります。耳の前から顎の下にかけて腫れ・痛みが生じ、発熱を伴うことが多いのが特徴です。合併症として無菌性髄膜炎・難聴・精巣炎(男性)・卵巣炎(女性)・膵炎などが知られています。
耳下腺腫瘍は、特に腫れに痛みがなく、ゆっくりと増大する場合に疑われます。顔面神経麻痺を伴う場合や急速に増大する場合は悪性の可能性があるため、速やかな精密検査が必要です。
✨ 9. 悪性リンパ腫や転移性リンパ節腫大の可能性
乳様突起付近のしこりが長期間持続したり、痛みなく増大したりする場合は、悪性疾患を念頭に置いた精密検査が必要になることがあります。悪性疾患として考慮すべき主な病態は以下のとおりです。
悪性リンパ腫は、リンパ球(白血球の一種)ががん化した血液のがんで、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別されます。頸部リンパ節・腋窩リンパ節・鼠径リンパ節などに腫れが生じることが多く、後耳介リンパ節に発症することもあります。
悪性リンパ腫の典型的な症状としては以下のものがあります。
- 痛みのないリンパ節の腫れ(硬く、ゴム状の弾力感)
- 発熱(特に夕方から夜にかけての高熱)
- 寝汗(盗汗)
- 体重減少(6カ月以内に体重の10%以上の減少)
- 全身の倦怠感・かゆみ
転移性リンパ節腫大は、頭頸部がん(咽頭がん・喉頭がん・甲状腺がん・口腔がんなど)や皮膚がん(メラノーマなど)が頸部・後耳介リンパ節に転移することで生じます。一次腫瘍の症状(声のかすれ・嚥下障害・口腔内の腫れなど)を伴うことが多いですが、転移リンパ節がしこりとして最初に気づかれることもあります。
悪性疾患は早期発見・早期治療が重要です。以下のいずれかに当てはまる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- しこりが3〜4週間以上経過しても改善しない
- しこりが急速に大きくなっている
- しこりが硬く、周囲に固定されている感じがする
- 痛みが全くないのにしこりが増大している
- 発熱・体重減少・寝汗などの全身症状を伴っている
- 複数のリンパ節が同時に腫れている
🔍 10. 自分でできるセルフチェックの方法
乳様突起付近のしこりを自分で確認する際には、以下のポイントに注目してみましょう。ただし、セルフチェックはあくまで受診を判断するための参考であり、医師による診察の代わりにはなりません。
確認すべき項目は以下のとおりです。
しこりの大きさ:おおよその直径を把握しておきましょう。1センチ以上のしこりは受診の目安になります。また、経時的に大きくなっていないかを定期的に確認することが重要です。
しこりの硬さ:柔らかく弾力がある場合は脂肪腫・粉瘤・良性リンパ節腫脹などが考えられ、硬い場合はリンパ節の炎症・悪性疾患・骨由来の病変などが疑われることがあります。ただし、硬さだけで診断することはできません。
しこりの動き:皮膚や周囲の組織に対してしこりが動くかどうかを確認します。よく動く場合は良性の可能性が高く、固定されている場合は悪性疾患の可能性を考える必要があります。
痛みの有無:押したときに痛みがある場合は炎症性のしこり(リンパ節炎・粉瘤の感染・乳様突起炎など)が疑われます。無痛のしこりでも医師の診察が必要です。
皮膚の変化:しこりの上の皮膚が赤くなっている・熱感がある・皮膚と一体化しているなどの変化を確認します。
随伴症状:発熱・耳の痛み・耳漏・聴力低下・めまい・体重減少・寝汗・倦怠感などの症状を伴っているかどうかも重要な情報です。
しこりの出現時期と経過:いつ頃から気づいたか、徐々に大きくなっているか変化していないかを把握しておきましょう。受診時に医師に伝えることで、診断の参考になります。
Q. 耳後ろのしこりで早急に受診すべき状態は?
耳の後ろのしこりで早急な受診が必要なサインは、3〜4週間以上しこりが続く、急速に大きくなる、発熱・耳漏・耳の痛みを伴う、硬くて周囲に固定されている、発熱・寝汗・体重減少などの全身症状がある場合です。アイシークリニックでも、こうした症状がある場合は自己判断での経過観察をせず早期受診を推奨しています。
💪 11. 受診すべき科と診断の流れ
乳様突起のしこりを主訴として受診する場合、どの診療科を選べばよいか迷う方も多いかと思います。以下を参考に受診科を選択してください。
耳鼻咽喉科が最初の選択肢として適しています。乳様突起・中耳・外耳・耳下腺・頸部リンパ節などを専門的に診察する診療科であり、乳様突起付近のしこりに関する診断・治療を幅広く対応できます。耳の症状(耳の痛み・耳漏・聴力低下・めまいなど)を伴っている場合は特に耳鼻咽喉科への受診が推奨されます。
皮膚科は、粉瘤・脂肪腫・皮膚感染症など皮膚や皮下組織由来のしこりが疑われる場合に適した診療科です。
形成外科・美容外科は、粉瘤や脂肪腫の外科的切除を行う診療科です。皮膚科と連携して診療を行うことも多いです。
内科・血液内科は、悪性リンパ腫や全身性疾患が疑われる場合(発熱・体重減少・寝汗などの全身症状を伴う場合)に適しています。
迷う場合は、まずかかりつけ医に相談してから適切な専門科への紹介を受けるという方法もあります。
診断の流れについては、一般的に以下の手順で行われます。
問診として、しこりの出現時期・大きさの変化・痛みの有無・随伴症状・既往歴・内服薬・家族歴などを詳しく確認します。
視診・触診として、しこりの外観・大きさ・硬さ・動き・皮膚との関係・圧痛の有無などを医師が直接確認します。
画像検査として、超音波(エコー)検査が最初に行われることが多く、しこりの内部構造・血流・周囲との関係を評価できます。必要に応じてCT検査やMRI検査が追加されます。乳様突起炎が疑われる場合はCT検査が特に有用です。
血液検査として、炎症の程度(CRP・白血球数など)・感染症の有無(ウイルス抗体価など)・腫瘍マーカーなどを評価します。
細胞診・組織生検として、悪性疾患が疑われる場合や画像検査だけでは診断がつかない場合、しこりに細い針を刺して細胞を採取する穿刺吸引細胞診(FNAC)や、一部の組織を採取する針生検・切除生検が行われることがあります。
🎯 12. 治療法の概要

乳様突起のしこりの治療は、原因疾患によって大きく異なります。それぞれの疾患に対する主な治療法を以下に示します。
反応性リンパ節腫脹(炎症性)の場合、原因となる感染症の治療が優先されます。細菌感染による場合は抗菌薬の投与、ウイルス感染による場合は安静・対症療法が基本です。原因が改善されれば、リンパ節の腫れも自然に縮小することが多いです。ただし、1カ月以上経過しても腫れが引かない場合は再評価が必要です。
粉瘤の場合、根治的な治療は外科的切除です。袋(嚢腫壁)ごと完全に摘出することで再発を防ぐことができます。炎症を起こしている場合は、まず切開排膿を行って炎症を鎮めてから、数週間〜数カ月後に切除術を行います。小さな粉瘤であれば局所麻酔下での日帰り手術が可能なことが多く、最近では「くり抜き法(トレパン法)」と呼ばれる最小切開での摘出術も広く行われています。
脂肪腫の場合も、外科的切除が根治的な治療です。症状がない小さな脂肪腫は経過観察することもありますが、大きくなっている・神経を圧迫している・美容的に気になるなどの場合は切除が選択されます。
乳様突起炎の場合、入院のうえ点滴による抗菌薬治療が行われます。起因菌として肺炎球菌・黄色ブドウ球菌・インフルエンザ菌などが多く、ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬が使用されます。骨破壊や膿の貯留がある場合、または保存的治療に反応しない場合は乳突削開術(手術)が必要になります。
悪性リンパ腫の場合、化学療法(抗がん剤)や放射線療法が治療の中心となります。病型(ホジキン型・非ホジキン型)・病期・患者の状態によって治療方針が決まります。近年は分子標的薬・免疫療法などの新しい治療法も開発されており、治療成績が向上しています。
転移性リンパ節腫大の場合、原発巣(がんの発生元)に対する治療(手術・放射線療法・化学療法など)が優先されます。頭頸部がんによる転移の場合は、頭頸部外科・放射線科・腫瘍内科などが連携して治療方針を決定します。
耳下腺腫瘍の場合、良性腫瘍であっても外科的切除が基本的な治療です。耳下腺の手術は顔面神経(顔の表情を動かす神経)に非常に近い場所で行われるため、専門的な技術と経験が必要です。悪性腫瘍の場合は切除後に放射線療法などを追加することがあります。
💡 13. 日常生活での注意点と予防
乳様突起付近のしこりを予防したり、悪化させないようにするためには、日常生活においていくつかの点に注意することが大切です。
耳掻きのしすぎに注意することが重要です。耳掻きを頻繁に行ったり、強くこすったりすると外耳道の皮膚を傷つけ、外耳炎の原因になります。外耳炎から後耳介リンパ節の腫れや乳様突起炎に進展することがあるため、耳掻きは月に数回程度にとどめ、綿棒を使いすぎないよう心がけましょう。
中耳炎の早期治療が大切です。子どもは特に急性中耳炎を繰り返しやすい時期があります。耳を痛がる・発熱がある・耳漏が出るなどの症状があれば、早めに耳鼻咽喉科を受診して適切な治療を受けることが、乳様突起炎などの合併症を予防することにつながります。
口腔内の衛生管理が大切です。歯周病・虫歯・口腔内感染は頸部リンパ節や耳下腺の炎症に関与することがあります。定期的な歯科受診と日々の口腔ケア(歯磨き・フロスなど)を実践しましょう。
適切な免疫管理として、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種は、中耳炎や関連する感染症の予防に役立ちます。特にお子さんや高齢者、免疫機能が低下している方は主治医と相談のうえ、適切なワクチン接種を検討してください。また、風疹・おたふくかぜに対するMMRワクチンの接種も重要です。
頭皮・耳周囲の清潔を保つことも大切です。頭皮・耳介・耳の後ろ側を清潔に保つことで、皮膚感染症や毛嚢炎の予防につながります。シャンプーや洗髪の際に耳の後ろ側もしっかりと洗い流しましょう。ただし、耳の中に水が入った場合は十分に水分を除去してください。
定期的な自己チェックを心がけることも重要です。月に一度程度、首や耳の後ろ側を触って異常なしこりがないか確認する習慣をつけましょう。早期発見・早期受診が多くの疾患において良好な予後につながります。
しこりを自分で触りすぎたり、針や爪などで刺激したりすることは避けてください。特に粉瘤などは無理に内容物を押し出そうとすると感染を起こすリスクがあります。
👨⚕️ 当院での診療傾向【医師コメント】
高桑康太 医師(当院治療責任者)より
「当院では、耳の後ろのしこりを主訴にご来院される患者様の多くは、後耳介リンパ節の反応性腫脹や粉瘤といった良性疾患であることが多いですが、なかには乳様突起炎や悪性疾患が背景にある場合もあるため、自己判断での経過観察はお勧めしません。最近の傾向として、しこりに気づいてからかなり時間が経過してからご受診される方も少なくなく、早期の段階でご相談いただくほど治療の選択肢も広がりますので、「しこりが数週間以上続く」「急に大きくなった」「発熱や耳の痛みを伴う」といった場合はどうぞお気軽に受診していただければと思います。」
📌 よくある質問
乳様突起は耳の後ろ下方に位置する骨の突起部分です。耳を少し後ろに引いて、その真後ろあたりを指で触れると、硬くて丸みのある骨のでっぱりとして確認できます。内部には中耳とつながる小さな空気の部屋(乳突蜂巣)が存在しており、中耳炎が悪化するとこの部位に炎症が及ぶことがあります。
最初の受診先としては耳鼻咽喉科が適しています。乳様突起・中耳・耳下腺・頸部リンパ節などを専門的に診察でき、幅広い原因に対応可能です。粉瘤や脂肪腫など皮膚由来のしこりが疑われる場合は皮膚科・形成外科も選択肢になります。迷う場合はかかりつけ医に相談し、適切な専門科へ紹介してもらう方法もあります。
以下の場合は早急に医療機関を受診してください。しこりが3〜4週間以上続く、急速に大きくなっている、発熱・耳の痛み・耳漏を伴っている、硬くて周囲に固定されている感じがする、または発熱・寝汗・体重減少などの全身症状を伴っている場合です。当院でも、気になる症状があれば早めのご相談をお勧めしています。
粉瘤は自然に消えることはなく、放置すると徐々に大きくなる傾向があります。また、細菌感染を起こすと赤く腫れて強い痛みが生じる「炎症性粉瘤」になることもあります。根治的な治療は外科的切除であり、袋ごと完全に摘出することで再発を防げます。耳の後ろは自分では見えにくい場所のため、気づかないうちに悪化するケースもあるため早めの受診が推奨されます。
乳様突起炎の主な症状は、耳の後ろの骨部分の発赤・腫れ・押したときの痛み、耳が前方に突き出て見える外観の変化、発熱、耳の痛みや耳漏などです。中耳炎の合併症として発症することが多く、重症化すると髄膜炎・顔面神経麻痺・難聴など重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、疑わしい症状が出た場合は速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。
✨ まとめ
乳様突起(耳の後ろ側の骨の突起部分)にしこりが生じる原因は、後耳介リンパ節の腫れ・粉瘤・脂肪腫・乳様突起炎・耳下腺の腫れ・悪性リンパ腫・転移性リンパ節腫大など多岐にわたります。多くの場合は感染症に伴う一時的なリンパ節腫脹や粉瘤などの良性疾患ですが、まれに重篤な感染症や悪性疾患が隠れていることもあります。
しこりに気づいた際は、大きさ・硬さ・動き・痛みの有無・経時的な変化・随伴症状などをしっかりと確認し、特に以下のような場合は早急に医療機関を受診することをお勧めします。
- しこりが3〜4週間以上続く
- 急速に大きくなっている
- 痛みや発熱・耳漏などの症状を伴っている
- 硬くて周囲に固定されている
- 発熱・寝汗・体重減少などの全身症状を伴っている
受診科としては耳鼻咽喉科が最初の選択肢として適していることが多いですが、皮膚由来のしこりが疑われる場合は皮膚科・形成外科も選択肢に入ります。自己判断で放置するのではなく、気になる症状があれば早めに専門医に相談することが大切です。
なお、本記事は医療情報の提供を目的としたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。症状の評価・診断・治療については必ず医療専門家にご相談ください。
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