もしかしてうつ病?初期症状・診断基準・受診目安を
うつ病の診断について解説します。初期症状、DSM-5などの診断基準、専門家による診察方法、自己診断の注意点、病院を受診する目安などを掲載。気になる症状がある方はぜひご覧ください。
目次
うつ病とは?基本的な理解
うつ病は、単なる「気分が落ち込んでいる」状態とは異なります。脳の機能に何らかの不調が生じ、気分や意欲、思考力などに影響を及ぼす病気です。誰でもかかる可能性のある一般的な病気であり、適切な診断と治療によって回復が見込めます。(参考:1 うつ病とは:ご存知ですか?うつ病|こころの耳)
うつ病になると、以前は楽しめていたことに関心がなくなったり、何をするにも億劫になったりといった症状が現れます。これらの症状は、仕事や学業、家庭生活など、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。風邪や怪我のように目に見える症状が少ないため、周囲だけでなく本人も病気だと気づきにくい場合があります。
しかし、うつ病は「心の病気」であると同時に「脳の病気」という側面も持ち合わせています。脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることなどが関与していると考えられており、根性論で治るものではありません。早期に専門家による診断を受け、適切な治療を開始することが非常に重要です。
うつ病の主なサインと初期症状
うつ病の症状は、人によって、また病気の進行度によって様々です。気分や感情の変化だけでなく、身体的な症状として現れることもあります。ここでは、うつ病を疑うべき主なサインと初期症状について詳しく解説します。
抑うつ気分や興味・関心の喪失
うつ病の中心的な症状の一つです。
- 抑うつ気分: ほとんど一日中、ほとんど毎日、「気分がゆううつだ」「悲しい」「落ち込んでいる」といった感覚が続きます。涙もろくなったり、理由もなく不安を感じたりすることもあります。
- 興味・関心の喪失: これまで好きだった趣味や活動、人との交流、仕事など、あらゆることに対する興味や喜びを感じられなくなります。以前は楽しかったはずのことでも、全く楽しいと思えなくなり、やる気が起きなくなります。
これらの症状は、病気の初期から現れることが多く、うつ病かどうかを判断する上で重要なサインとなります。
睡眠や食欲の変化
うつ病は、自律神経のバランスにも影響を与えるため、睡眠や食欲に変化が現れることがよくあります。
- 睡眠の変化: 最も典型的なのは不眠です。特に、朝早く目が覚めてしまい、その後眠れなくなる「早朝覚醒」が多く見られます。寝つきが悪くなる「入眠困難」や、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」も起こります。一方で、一日中眠気が強く、寝てばかりいる「過眠」の症状が出る人もいます。
- 食欲の変化: 食欲がなくなってしまい、体重が減少することがあります。食べることに全く興味が持てず、食事の準備や食べる行為自体が億劫になることもあります。逆に、ストレスから過食に走り、体重が増加するケースも見られます。
睡眠や食欲の変化は、体の不調として自覚しやすい症状ですが、これがうつ病のサインである可能性も考慮する必要があります。
疲労感や気力の低下
体がだるく、何をしても疲れやすいという症状も、うつ病によく見られます。
- 疲労感: 十分な休息をとっても疲れが取れない、体が重い、だるいといった感覚が一日中続きます。朝起きた時から体がだるく、起き上がるのが辛いと感じる人もいます。
- 気力の低下(易疲労感、倦怠感): 何かをするためのエネルギーが枯渇したように感じられます。以前は簡単にできていた家事や仕事も、非常に労力がかかるように感じ、すぐに疲れてしまいます。体を動かすことが億劫になり、ほとんど一日中寝ているか、じっと座っているだけになることもあります。
この疲労感や気力の低下は、単なる休息不足と間違われやすいため注意が必要です。
思考力・集中力・判断力の低下
うつ病は脳の機能に影響するため、考えることや集中すること、物事を判断することなどが難しくなります。
- 思考力の低下: 頭の回転が遅くなったように感じたり、考えがまとまらなかったりします。簡単な計算や書類の整理なども難しくなり、混乱することがあります。
- 集中力の低下: 本や新聞を読むのが難しくなったり、テレビの内容が頭に入ってこなくなったりします。仕事中や会話中に集中力が続かず、ミスが増えたり、話についていけなくなったりします。
- 判断力の低下: 物事を決められなくなったり、些細なことでもどちらを選べば良いか分からなくなったりします。「何を食べるか」「何を着るか」といった日常的な選択も困難になることがあります。
これらの認知機能の低下は、仕事や学業に直接的な影響を与えるため、本人も周囲も異変に気づきやすいサインの一つです。
その他の身体症状
うつ病は「心」の病気と思われがちですが、様々な身体症状を伴うことがあります。これを「仮面うつ病」と呼ぶこともあります。
- 頭痛、肩こり、腰痛: 慢性的な痛みに悩まされることがあります。
- 吐き気、胃の不快感、便秘や下痢: 消化器系の不調が現れることがあります。
- 動悸、息苦しさ: 心臓や呼吸器系の問題がないのに、これらの症状が現れることがあります。
- めまい、耳鳴り: 自律神経の乱れに関連して起こることがあります。
- 口の渇き、味覚異常: 食欲不振と関連して現れることもあります。
これらの身体症状は、内科などを受診しても原因が特定できない場合に、うつ病のサインとして疑われることがあります。身体的な苦痛が先行するため、本人がうつ病だと気づきにくいケースです。
うつ病になりかけの初期症状は?
うつ病が本格的に発症する前に見られる、比較的軽い初期症状には以下のようなものがあります。
- なんとなく気分が晴れない日が続く
- 以前ほど物事に興味を持てなくなった
- 疲れやすくなった、体がだるい
- 寝つきが悪くなった、あるいは朝早く目が覚めるようになった
- 食事が美味しく感じられない、食べたくない
- 些細なことでイライラしたり、落ち込んだりする
- 仕事や家事に以前より時間がかかるようになった
- 人との交流が億劫に感じる
これらの症状は、忙しさや一時的なストレスによるものと勘違いしやすいですが、2週間以上続くようであれば注意が必要です。早めに気づき、休養をとったり、専門家に相談したりすることで、重症化を防げる可能性があります。
女性に現れやすいうつ病のサイン
女性は男性に比べてうつ病にかかる割合が高いとされています。女性特有のライフイベント(月経、妊娠、出産、更年期など)に伴うホルモンバランスの変化が影響していると考えられています。
女性に現れやすいうつ病のサインとしては、以下のようなものがあります。
- 月経前や更年期に症状が悪化する
- イライラや不安感が強く出る
- 身体症状(頭痛、肩こり、腹痛など)が前面に出やすい
- 過食や過眠の症状が出やすい
- 育児や家事に対する罪悪感を強く感じる(特に産後うつ病)
これらの症状は、PMS(月経前症候群)や更年期障害と間違われやすいですが、気分の落ち込みや興味の喪失を伴う場合は、うつ病の可能性も考慮する必要があります。
子供(中学生・小学生・高校生)のうつ病サイン
子供や思春期のうつ病は、大人とは異なるサインで現れることがあります。気分の落ち込みを言葉で表現するのが難しいため、行動の変化として現れることが多いです。
- イライラしたり、反抗的な態度をとったりする
- 学校に行きたがらない、成績が低下する
- 友達付き合いが悪くなる、引きこもりがちになる
- 体調不良を頻繁に訴える(腹痛、頭痛など)
- 遊びや好きなことに関心を示さなくなる
- 落ち着きがない、ソワソワしている
- 食欲不振または過食
- 睡眠の乱れ(寝付けない、朝起きられないなど)
- 死に関する発言をする
特に思春期は、本来気分の波が大きい時期ですが、上記のサインが強く出たり、長く続いたりする場合は注意が必要です。単なる反抗期や怠けと決めつけず、専門家に相談することを検討しましょう。
人前では明るいがうつ病の可能性?
うつ病というと、「いつも暗く落ち込んでいる」というイメージがあるかもしれませんが、人前では明るく振る舞い、一人になったり、気を許せる人の前でだけ落ち込んだりするタイプのうつ病もあります。これを「非定型うつ病」や「微笑みうつ病(仮面うつ病の一種)」と呼ぶことがあります。
このようなタイプの場合、周囲からは「元気そうだ」「どこも悪くなさそうだ」と思われがちで、本人の苦しさが理解されにくい傾向があります。本人も、「こんな自分がうつ病のはずがない」と自己否定してしまい、発見や診断が遅れることがあります。
- 特定の状況(楽しい出来事など)では一時的に気分が回復する
- 手足が鉛のように重く感じる
- 拒絶されることに対する過敏さが強い
- 人間関係の問題を抱えやすい
- 過食や過眠の傾向がある
人前での様子だけでは判断できないうつ病も存在することを理解しておくことが重要です。本人が「辛い」と訴えている場合は、たとえ明るく見えても真剣に耳を傾ける必要があります。
専門家によるうつ病の診断基準(DSM-5, ICD-10/11)
うつ病の診断は、医師が患者さんの症状を総合的に評価して行います。その際、世界的に広く用いられている診断基準が参照されます。代表的なものに、アメリカ精神医学会が作成する「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」と、世界保健機関(WHO)が作成する「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」があります。現在主に用いられているのは、DSM-5(第5版)とICD-10(日本ではまだ主流)、そして最新のICD-11です。
DSM-5による診断基準の概要
DSM-5における「抑うつ障害群」の中の主要なものとして、「大うつ病性障害(Major Depressive Disorder)」があります。うつ病と診断される際に、この大うつ病性障害の診断基準が参照されることが最も多いです(DSM5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)参照)。
DSM-5の診断基準では、以下の9つの症状項目のうち、5つ以上を満たすことが必要です。しかも、その5つ以上の中に、(1)抑うつ気分 または (2)興味または喜びの喪失のどちらか少なくとも1つが含まれていることが必須条件となります。(気分症群に関する情報も参考になります。)
大うつ病性障害のDSM-5診断基準(抜粋・要約)
項目 | 内容(※DSM-5の厳密な表現とは異なります) |
---|---|
(1) 抑うつ気分 | ほとんど一日中、ほとんど毎日の抑うつ気分(本人の訴えまたは他者による観察) |
(2) 興味または喜びの喪失 | ほとんど一日中、ほとんど毎日の、ほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(本人の訴えまたは他者による観察) |
(3) 体重または食欲の著しい変化 | 著しい体重減少または増加(1ヶ月で体重の5%以上の変化)またはほとんど毎日の食欲不振または増加 |
(4) 睡眠の障害 | ほとんど毎日の不眠または過眠 |
(5) 精神運動性の焦燥または制止 | ほとんど毎日の精神運動性の焦燥(落ち着きなく動き回る)または制止(動きが鈍くなる)(他者による観察可能) |
(6) 疲労感または気力の減退 | ほとんど毎日の易疲労感または気力の減退 |
(7) 無価値観または罪悪感 | ほとんど毎日の無価値観または過剰あるいは不適切な罪悪感(妄想的である可能性もある) |
(8) 思考力、集中力、決断力の低下 | ほとんど毎日の思考力、集中力、あるいは決断力の低下(本人の訴えまたは他者による観察) |
(9) 死についての反復思考、自殺念慮など | 死についての反復思考、特定の計画はないが反復する自殺念慮、または自殺企図もしくは自殺を遂行するための特定の計画 |
重要な注意点:
- 上記の症状が2週間以上続いていること。
- 上記の症状が、うつ病エピソード期間中に存在すること。
- 症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていること。
- 症状が、物質(薬物乱用、投薬)の生理学的作用または他の医学的疾患によるものではないこと。
- 症状が、統合失調感情障害、統合失調症、妄想性障害、または他の特定の/特定不能の精神病性障害ではよりよく説明されないこと。
- 躁病エピソードまたは軽躁病エピソードが今までに存在しないこと。(これは双極性障害との鑑別に重要)
主要な判断項目と基準期間
診断基準のポイントは以下の2点です。
- 主要症状の有無: 上記9項目のうち、「抑うつ気分」または「興味・喜びの喪失」のどちらかが必須であること。
- 症状の数: 必須症状を含め、合計5項目以上の症状が当てはまること。
- 期間: これらの症状が少なくとも2週間、ほとんど毎日続いていること。
短期間の気分の落ち込みや、特定の出来事(例えば、身近な人の死)に対する正常な反応(悲哀)は、うつ病の診断基準には当てはまりません。症状の持続期間が重要な判断基準となります。
重症度の評価
DSM-5では、診断基準を満たした上で、症状の数や重さ、日常生活への影響度などから、うつ病の重症度を軽度、中等度、重度に分類します。
- 軽度: 基準を満たす症状はわずかに多く、症状は管理可能で、機能障害は軽微。
- 中等度: 症状の数と重症度、機能障害は軽度と重度の間のレベル。
- 重度: 基準をかなり超える数の症状があり、症状は管理困難で、機能障害は顕著。自殺念慮がある場合も重度に含まれることが多い。
重症度の評価は、治療法を選択する上で重要な要素となります。重度の場合や自殺のリスクが高い場合は、入院を含めたより集中的な治療が必要となることもあります。
ICD-10やICD-11にも同様の診断基準がありますが、DSM-5と細部が異なる場合があります。いずれの基準を用いるにしても、最終的な診断はこれらの基準だけでなく、医師の臨床経験に基づいた総合的な判断によって行われます。
医師はうつ病をどうやって判断する?実際の診断方法
精神科医や心療内科医がうつ病の診断を行う際には、単に診断基準に当てはまる症状があるかを確認するだけでなく、様々な情報を総合的に評価します。問診、心理検査、身体検査などを組み合わせて、慎重に診断を進めます。
精神科医や心療内科医による問診
問診は、うつ病の診断において最も重要かつ基本的なステップです。医師は患者さんとの対話を通じて、現在の症状、症状が現れ始めた時期やきっかけ、症状の経過、日常生活への影響などを詳しく聞き取ります。
問診で確認される主な内容は以下の通りです。
- 現在の主な症状: どのような症状に最も困っているか、具体的な内容(気分、意欲、睡眠、食欲、体の不調など)
- 症状の期間と経過: いつ頃から症状が出始めたか、どのような経過をたどっているか(良くなったり悪くなったりするかなど)
- 症状の重症度: 症状によって、仕事や家事、人付き合いなどがどの程度困難になっているか
- 生活状況: 仕事や学校の状況、家庭環境、人間関係、最近のストレスイベント(転居、異動、離別など)の有無
- 既往歴: これまでの病歴(精神疾患を含む)、アレルギーの有無、現在服用している薬
- 家族歴: 家族にうつ病などの精神疾患にかかった人がいるか
- 自殺念慮の有無: 死にたい気持ちがあるか、具体的な計画があるかなど(非常に重要な確認事項)
- その他: 飲酒や喫煙の習慣、薬物使用の有無、過去のトラウマ体験など
医師は、患者さんの話を聞くだけでなく、話し方、表情、姿勢、身だしなみなど、診察室での様子も観察します。これらの情報を総合して、うつ病の可能性や重症度、他の精神疾患との鑑別などを検討します。患者さんが症状をうまく言葉にできない場合でも、医師は様々な角度から質問を投げかけ、情報を引き出そうと努めます。
心理検査の活用
問診だけでは把握しきれない情報を補うために、心理検査が用いられることがあります。心理検査は、患者さんの精神状態や性格傾向などを客観的に評価するためのツールです。
うつ病の診断や重症度評価でよく用いられる心理検査には以下のようなものがあります。
- 質問紙法: 患者さんが質問項目に対して自分で回答する形式の検査です。
- BDI-II (ベックうつ病質問票 第二版): うつ病の典型的な症状に関する21項目からなり、うつ病の重症度を評価するのに用いられます。
- CES-D (疫学研究センター抑うつ尺度): 一般集団における抑うつ症状のスクリーニングに用いられることが多いですが、うつ病の程度を測るのにも活用されます。
- SDS (自己評価式抑うつ性尺度): 気分、精神運動性、身体症状など、うつ病の様々な側面に関する20項目からなります。
- 投影法: 患者さんの反応を分析することで、無意識の心理状態を探る検査です。
- ロールシャッハテスト: インクの染みを見た時に何に見えるかを答えてもらう検査。
- TAT (主題統覚検査): 絵を見て物語を作ってもらう検査。
- P-Fスタディ: 欲求不満場面のマンガを見て、登場人物のセリフを考えてもらう検査。
- 知能検査や性格検査: WISC-IV/WAIS-IV(知能検査)、MMPI(ミネソタ多角的パーソナリティ目録)など。思考力や集中力の低下が著しい場合、他の精神疾患の可能性を探る場合などに用いられます。
心理検査の結果は、診断基準への当てはまり具合や、患者さんの全体的な状態を理解するための参考情報として活用されます。心理検査の結果だけで診断が確定するわけではありませんが、医師の臨床的な判断をサポートする上で重要な役割を果たします。
身体疾患の除外(採血・画像検査など)
うつ病と似た症状を引き起こす身体疾患がいくつか存在するため、うつ病の診断の際には、これらの身体疾患の可能性を除外するための検査が行われることがあります。これは、うつ病だと思っていたら実は別の病気が原因だった、というケースを防ぐために非常に重要です。
除外すべき主な身体疾患と、関連する検査には以下のようなものがあります。
- 甲状腺機能低下症: 甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、倦怠感、意欲低下、気分の落ち込み、集中力低下などの症状が現れます。血液検査で甲状腺ホルモンの値を測定します。
- 貧血: 特に鉄欠乏性貧血は、疲労感、だるさ、集中力低下などを引き起こします。血液検査でヘモグロビンなどの値を測定します。
- ビタミン欠乏症: ビタミンB12や葉酸などの欠乏も、抑うつ気分や疲労感に関連することがあります。血液検査で確認することがあります。
- 脳腫瘍や脳血管障害: 脳の病変が原因で、気分の変化や認知機能の低下が現れることがあります。必要に応じて頭部MRIやCTスキャンなどの画像検査が行われます。
- 睡眠時無呼吸症候群: 睡眠の質が悪くなることで、日中の強い眠気や集中力低下、抑うつ気分を引き起こすことがあります。睡眠ポリグラフ検査などが行われます。
- その他の疾患: 糖尿病、膠原病、感染症、特定の薬剤の副作用なども、うつ病に似た症状を引き起こす可能性があります。
これらの身体検査は、すべての患者さんに一律に行われるわけではありません。問診の結果や、患者さんの年齢、基礎疾患などを考慮して、医師が必要と判断した場合に行われます。
光トポグラフィー検査について
近年、うつ病の診断補助として「光トポグラフィー検査(NIRS: Near-Infrared Spectroscopy)」が注目されることがあります。これは、近赤外光を使って脳の血流量の変化を測定し、脳の活動状態を調べる検査です。
検査では、簡単な課題(例えば、歌の歌詞を考えるなど)を行っている際の脳の活動パターンを測定します。うつ病、双極性障害、統合失調症では、それぞれ特徴的な脳の活動パターンを示す傾向があると言われています。
光トポグラフィー検査の位置づけに関する注意点:
- 診断「補助」であること: 光トポグラフィー検査は、あくまでうつ病の診断を補助するための検査であり、この検査だけでうつ病の診断が確定するものではありません。最終的な診断は、問診や他の検査結果、医師の臨床判断に基づいて総合的に行われます。
- 保険適用について: 条件を満たせば保険適用される場合がありますが、まだ導入している医療機関は限られています。
- 万能ではない: 脳の状態を客観的に評価する有用な情報を提供しますが、個々の患者さんの状態を完全に反映するものではありません。
光トポグラフィー検査は、他の情報と組み合わせて活用することで、より精度の高い診断に繋がる可能性を秘めていますが、過信は禁物です。
医師は、これらの様々な情報をパズルのピースのように集め、患者さんの状態を多角的に理解することで、正確な診断を目指します。診断に時間がかかる場合や、他の病気との鑑別が難しい場合もありますが、患者さんは正直に自分の状態を伝えることが診断への近道となります。
うつ病のセルフチェック・無料診断について
インターネット上や書籍などで、うつ病のセルフチェックリストや無料診断テストを見かけることがあります。「もしかしてうつ病かも…」と気になった時に、手軽に試せるため利用する方も多いでしょう。しかし、これらのセルフチェックや無料診断には、その利用において重要な注意点があります。
自己診断の限界と注意点
セルフチェックリストや無料診断は、あくまで「今の自分の状態が、うつ病の症状にどの程度当てはまるか」を測るための、簡易的なツールです。これらは、うつ病の可能性に気づくきっかけになったり、医療機関を受診する目安を知るために役立ったりすることはあります。
しかし、セルフチェックや無料診断の結果だけで、うつ病かどうかを自己判断することは絶対に避けるべきです。その理由として、以下の点が挙げられます。
- 医学的な診断ではない: セルフチェックは、医師による専門的な問診、観察、検査などを経た上での総合的な診断とは全く異なります。あくまで質問紙や簡単なテストの結果に基づくだけで、個々の状況や背景を十分に考慮できません。
- 他の病気の可能性: うつ病と似た症状を引き起こす他の精神疾患(双極性障害、不安障害など)や身体疾患(甲状腺疾患、貧血など)の可能性を判別できません。自己判断でうつ病だと思い込み、適切な治療機会を逃してしまうリスクがあります。
- 症状の解釈の難しさ: 同じ質問項目でも、回答者の主観によって解釈が異なる場合があります。例えば、「食欲がない」という項目でも、どの程度の食欲不振を指すのかは人によって感覚が違います。
- 病識の欠如や過小評価/過大評価: うつ病の場合、自分自身の状態を正しく認識できない(病識がない)ことがあり、症状を過小評価してしまう可能性があります。逆に、不安が強い人は症状を過大に捉えてしまうこともあります。
セルフチェックで高い点数が出たとしても、それが直ちにうつ病を意味するわけではありません。また、低い点数だったとしても、必ずしもうつ病ではないと断言できるわけではありません。
セルフチェックを利用する際の正しい姿勢:
- あくまで参考情報として捉える。
- 結果に一喜一憂せず、一つの手がかりと考える。
- 気になる症状が続く場合は、結果に関わらず専門家(医師や相談機関)に相談するきっかけとする。
無料診断は誰でも当てはまる?
インターネット上の無料診断テストは、多くの人がアクセスしやすいように作られています。そのため、設問の内容が一般的な症状に焦点を当てており、ある程度の人が何らかの項目に当てはまる可能性があります。
例えば、「最近疲れていますか?」といった質問は、うつ病でなくても、一時的な疲労やストレスを感じている人であれば「はい」と答えるでしょう。このように、無料診断で「うつ病の可能性があります」といった結果が出ても、それはあくまで可能性を示唆しているに過ぎません。
無料診断が「誰にでも当てはまるように作られている」わけではありませんが、その性質上、健康な人でも一部の項目が当てはまることはあり得ます。重要なのは、診断基準で示されるような主要な症状が複数あり、それが一定期間(通常2週間以上)続き、日常生活に支障をきたしているかどうかです。
無料診断の結果に過度に振り回されず、自身の状態を冷静に観察し、必要であれば専門家の意見を求めることが賢明です。
病院を受診する目安と相談先
うつ病の診断は専門家によって行われるべきです。では、どのような症状がどのくらい続いたら、病院を受診することを検討すべきなのでしょうか。また、どこに相談すれば良いのでしょうか。
どんな症状が続いたら受診を検討すべきか
セルフチェックの結果に関わらず、以下のような状態が2週間以上続いている場合は、医療機関を受診することを強く検討してください。
- 気分がひどく落ち込み、何を見ても聞いても楽しいと感じられない状態がほとんど一日中、ほとんど毎日続いている。
- 以前は楽しかったこと(趣味、人との交流、仕事など)に全く興味を持てなくなり、やる気が起きない。
- 夜眠れない(寝つきが悪い、途中で目が覚める、早く目が覚める)日が続いている、または反対に寝すぎてしまう。
- 食欲がなくなり、体重が減ってきた(または過食して体重が増えた)。
- 体がだるく、何をしてもすぐに疲れてしまう。
- 頭の回転が悪くなったように感じたり、集中力が続かず、仕事や家事に支障が出ている。
- 自分には価値がない、自分が悪い、といった考えに囚われ、強い罪悪感を感じる。
- 死ぬことや自殺について考えるようになった。
- 身体の不調(頭痛、肩こり、胃の不快感など)が続き、他の病気が見つからない。
これらの症状が複数当てはまり、自分自身でコントロールできず、日常生活に明らかな支障(仕事に行けない、家事ができない、人と会えないなど)が出ている場合は、迷わず専門家の診察を受けてください。
特に、「死にたい」「消えてなくなりたい」といった考えが頭から離れない場合は、一刻も早く医療機関を受診するか、信頼できる人に相談してください。これはうつ病の重篤なサインであり、放置すると非常に危険です。
家族や周囲の人が気づいたサイン
うつ病の初期段階では、本人が病気だと気づいていないことがあります。家族や友人、同僚など、周囲の人が異変に気づくことも少なくありません。もし、身近な人に以下のような変化が見られたら、優しく声をかけ、専門家への相談や受診を勧めてみてください。
- 以前より口数が減り、笑顔が見られなくなった。
- 誘っても「疲れているから」「気が乗らない」と断ることが増えた。
- おしゃれをしなくなったり、身だしなみに気を遣わなくなった。
- 仕事や家事でミスが増えたり、効率が悪くなった。
- イライラしたり、怒りっぽくなった。
- 「自分はダメだ」「生きている意味がない」といった否定的な言葉を口にするようになった。
- 泣いていることが多くなった。
- お酒の量が増えた。
- 眠れていない、食欲がないといった体の不調を訴えることが増えた。
- 「死にたい」など、死に関する発言をするようになった。
声をかける際は、「頑張れ」といった励ましは、かえってプレッシャーになることがあるため避けた方が良い場合もあります。「最近疲れているように見えるけど大丈夫?」「何か辛いことはない?」など、相手の体調や気持ちを気遣う言葉を選ぶようにしましょう。そして、必要な情報(相談窓口や医療機関の情報)を提供し、一緒に相談に行くなどのサポートを申し出ることも有効です。
相談できる窓口一覧
すぐに医療機関を受診するのはハードルが高いと感じる場合や、まずは誰かに話を聞いてほしいという場合は、様々な相談窓口があります。
相談窓口 | 概要 |
---|---|
精神保健福祉センター | 各都道府県・政令指定都市にある、心の健康に関する専門機関。相談員や精神科医が対応。電話相談や面接相談が可能。 |
保健所 | 地域住民の健康に関する相談を受け付けている。心の健康に関する相談も可能。 |
いのちの電話 | 匿名で利用できる、全国共通の自殺予防のための電話相談窓口。24時間体制の場合が多い。 |
よりそいホットライン | どんな困難な状況にある人も、誰かに話を聞いてほしいときに利用できる相談窓口。様々な言語での対応も可能。 |
SNS相談 | LINEやTwitterなどを活用した相談窓口。若年層を中心に利用しやすい。 |
会社の産業医・EAP(従業員支援プログラム) | 企業によっては、専門家による相談窓口が設けられている場合がある。職場のストレスなどが原因の場合に利用しやすい。 |
かかりつけ医 | 普段から診てもらっている医師に相談する。必要に応じて専門医を紹介してくれる。 |
これらの相談窓口は、専門家が対応してくれるため、安心して話をすることができます。まずは一人で抱え込まず、誰かに相談してみることが大切です。
うつ病と診断されたら?治療と回復への道筋
専門家による診断の結果、うつ病であると診断された場合、適切な治療を開始することが回復への第一歩となります。うつ病の治療法は、病状の程度や患者さんの状態に合わせて、いくつかの方法が組み合わされます。
うつ病治療の3つの柱は、以下の通りです。
- 休養: まず最も重要なのは、心と体をしっかりと休めることです。過度なストレスや負担から離れ、十分な睡眠と休息をとることが回復の土台となります。必要であれば、仕事や学校を休む、家事の負担を減らすなどの調整が必要です。
- 薬物療法: 脳内の神経伝達物質のバランスを調整するために、抗うつ薬が処方されることが一般的です。抗うつ薬には様々な種類があり、医師が患者さんの症状や体質に合わせて選択します。効果が出るまでに時間がかかることがあり(通常2〜4週間)、副作用が出る場合もありますが、医師の指示に従って正しく服用することが重要です。自己判断での中断は、かえって症状を悪化させる可能性があるため絶対に避けましょう。
- 精神療法(カウンセリング): 認知行動療法や対人関係療法など、様々な精神療法があります。専門のカウンセラーや臨床心理士が、患者さんの考え方や行動のパターンを見直し、ストレスへの対処法などを一緒に考えていきます。薬物療法と併行して行われることで、より高い治療効果が期待できます。
これらの治療を継続することで、多くの患者さんが症状の改善を実感し、回復へと向かいます。治療期間は人によって異なりますが、通常数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。焦らず、医師と相談しながら、自分のペースで治療を進めることが大切です。
また、治療期間中は、規則正しい生活を心がけ、適度な運動を取り入れ、バランスの取れた食事を摂るなど、生活習慣を整えることも回復をサポートします。
回復の過程では、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すこともあります。これは病気の特徴であり、決して後戻りしているわけではありません。波があることを理解し、根気強く治療を続けることが重要です。
うつ病は再発しやすい病気でもあります。症状が改善した後も、医師の指示に従って服薬を続けたり、定期的に通院したりすることで、再発予防に努めることが大切です。
うつ病は一人で抱え込む必要はありません。専門家のサポートを受けながら、回復への道を歩んでいきましょう。
よくある質問(Q&A)
うつ病の診断に関して、よく寄せられる質問にお答えします。
うつ病は誰でもなる?なりやすい人は?
うつ病は、特別な人がかかる病気ではありません。誰でも、人生の様々なストレスや出来事をきっかけに発症する可能性があります。真面目で責任感が強い人、完璧主義な人、周囲の評価を気にしやすい人、感受性が豊かな人などが、ストレスをため込みやすく、うつ病になりやすい傾向があると言われることもありますが、性格だけで決まるものではありません。
遺伝的な要因や、幼少期の体験、慢性的なストレス、体の病気、環境の変化など、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。大切なのは、「自分は大丈夫」と過信せず、心身の不調に気づいたら早めに対処することです。
うつ病と血液型に関係はある?
うつ病の発症と血液型の間には、医学的・科学的な根拠に基づいた関連性は確認されていません。 血液型によって性格が分類されるといった話はありますが、これは科学的な裏付けがないものです。うつ病は、脳の機能や様々な環境要因、遺伝的要因などが複雑に絡み合って発症するものであり、血液型のような単純な要素で決まるものではありません。
うつ病の人がとる行動とは?
うつ病の人がとる行動は様々で、一概には言えませんが、症状に関連した行動が多く見られます。
- 引きこもる、人との交流を避ける: 意欲や興味の喪失、疲労感、罪悪感などから、外出や人との交流が億劫になり、家に閉じこもりがちになります。
- 身の回りのことがおろそかになる: 入浴、着替え、歯磨きなど、基本的なセルフケアをする気力がなくなり、身だしなみが乱れることがあります。
- 仕事や学業を休む、遅刻が増える: 集中力や思考力の低下、疲労感、無価値観などから、仕事や学業の継続が困難になります。
- 好きなことや趣味をやめる: 興味の喪失により、以前は楽しんでいたことに対する関心がなくなります。
- イライラしたり、感情的になったりする: 気分の不安定さから、些細なことで怒りっぽくなったり、涙もろくなったりします。
- 過剰に心配したり、ネガティブなことばかり考えたりする: 不安感や悲観的な思考に囚われやすくなります。
- 飲酒や喫煙が増える: 気分を紛らわせるために、アルコールやタバコの量が増えることがあります。
- 「疲れた」「だるい」と頻繁に訴える: 身体的な不調を訴えることが多くなります。
- 「自分はダメだ」「いなくなってしまいたい」といった発言をする: 強い無価値観や絶望感から、このような発言をすることがあります。
これらの行動は、病気のサインとして捉えることが重要です。これらの行動が見られた場合は、単なるわがままや怠けではなく、病気によるものかもしれないと理解し、本人に寄り添う姿勢が大切です。
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参考文献・情報源
- 1 うつ病とは:ご存知ですか?うつ病|こころの耳
- DSM5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)
- 気分症群
- 厚生労働省 e-ヘルスネット:うつ病
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5). 2013.
- World Health Organization. International Classification of Diseases 10th Revision (ICD-10). 1992.
- World Health Organization. International Classification of Diseases 11th Revision (ICD-11). 2019.
- 日本うつ病学会:うつ病の診断と治療に関するガイドライン
- その他、信頼できる医学専門書、公的機関のウェブサイトなど
免責事項
本記事は、うつ病の診断に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、医学的なアドバイスや診断、治療を代替するものではありません。個々の症状については、必ず医師や専門家の診断を受けるようにしてください。本記事の情報に基づいて行われた行動によって生じたいかなる結果についても、当社は一切の責任を負いかねます。