脂漏性角化症(老人性イボ)の原因とは?皮膚にシミができない治療法や予防方法を解説
「脂漏性角化症(老人性イボ)の原因は?」
「脂漏性角化症になったらどうすればいい?」
このように、顔や首などのイボに悩んでいる方もおられるのではないでしょうか。
脂漏性角化症は、年齢を重ねるごとにできやすくなるイボのことです。ただし、20代の方でも首やこめかみを中心にイボができることがあります。
本記事では、脂漏性角化症の原因や治し方を紹介します。また、記事の後半では市販薬の効果や予防方法も解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
脂漏性角化症はどんな病気?
脂漏性角化症は「老人性イボ」とも呼ばれる、イボ状の皮膚疾患です〔1,2,3〕。正式には「seborrheic keratosis」と呼ばれ、最も一般的な良性皮膚腫瘍の一つとして知られています〔2,10〕。世界的には40歳以上の成人の約80%以上に見られる極めて頻度の高い皮膚病変です〔2,4〕。
体中どこでもできますが、特に顔や首に多いのが特徴です〔1,12〕。疫学調査では、60歳以上では約90%、80歳以上では100%近くの人に何らかの脂漏性角化症が認められることが報告されています〔4,8〕。好発部位は顔面(約60%)、体幹(約30%)、頸部(約20%)の順となっています〔12〕。
大きさは2mm~2cmほどで、円形や楕円形をしています。表面はスベスベもしくはカサカサとしており、痛みはありません。
しかし、脂漏性角化症は時間の経過と共に大きくなるため、肥大化したイボが指や衣類に当たって出血したり炎症を起こしたりすることがあります。
脂漏性角化症はどうして起こる?脂漏性角化症の原因とは
脂漏性角化症の原因は、紫外線です〔1,4,8〕。皮膚が長年日光に晒されることで、紫外線により皮膚の遺伝子に異常が発生します。分子レベルでは、FGFR3、PIK3CA、RAS遺伝子などの活性化変異が高頻度に検出されており、表皮角化細胞の異常増殖の原因とされています〔3,12〕。また、加齢に伴う皮膚の抗酸化能力低下も病態に関与しています〔3〕。
異常が発生した細胞は、増殖し皮膚を盛り上がるのが特徴です。さらに、色素細胞を刺激することで色が濃くなります。
そのため、以下のような方は脂漏性角化症ができやすいため注意が必要です。
- 野外でスポーツや仕事をする方
- 皮膚の色が薄く、外出中に化粧や日焼け止めを使わない方
- 日焼けサロンに行く方
そのほか、遺伝によって脂漏性角化症の発症確率は変化すると考えられています。
脂漏性角化症の診断方法を紹介
脂漏性角化症は、ほとんどの場合観察するだけで診断できます。
しかし、典型的な脂漏性角化症でなかったり不確かだったりする場合は、以下の流れで診断します。
- 問診:症状や病歴の確認
- 診察:患部の視診
- 検査:ダーモスコープ(拡大鏡)で患部を詳細に観察〔11,13,14,22〕 ダーモスコピー検査では、脂漏性角化症に特徴的な「脳回様パターン」「コメド様開口部」「粟粒様嚢胞」などの所見が観察されます〔11,22〕。これらの所見により、悪性黒色腫や基底細胞癌との鑑別診断が可能となり、診断精度が大幅に向上します〔13,14〕。
それでも脂漏性角化症と診断できない場合は、皮膚組織の一部を取り病理検査をします。
脂漏性角化症は自分で取るべき?脂漏性角化症の治療方法とは
脂漏性角化症になったら、自分で取らず医師の診療を受けましょう。自分で取ると、再発したり感染症にかかったりする場合があります。脂漏性角化症は、厳密にはイボではないため市販薬は効果が期待できません。
脂漏性角化症の治療方法は主に以下の3つです。
- 液体窒素
- レーザー治療
- 外科的治療
次に、それぞれの治療法について解説します。
脂漏性角化症の治療法(1)液体窒素(保険適用)
脂漏性角化症の治療法として、液体窒素による冷凍凝固があります〔5,12,16〕。冷凍凝固療法は脂漏性角化症の第一選択治療として国際的に推奨されており、治療成功率は約85-90%と報告されています〔5〕。-196℃の液体窒素により病変部を凍結し、細胞内氷晶形成による細胞破壊を引き起こします〔16〕。
皮膚科のクリニックであればほとんどのところで受けられる治療法で、価格も安価です。ただし、治療時と治療後には強い痛みがあります。
また、治療部位には半年~2年程度、色素沈着が残るのが欠点です。
脂漏性角化症の治療法(2)レーザー治療(保険適用外)
脂漏性角化症の治療法として、レーザー治療もあります。
レーザーの種類による違いは以下の通りです。
レーザーの種類 | 特徴 |
---|---|
炭酸ガスレーザー | ・盛り上がりの程度に関係なく治療できる ・治療後の色素沈着が数ヶ月程度と短い |
Qスイッチ・レーザー | ・盛り上がりが低いイボのみ治療できる ・治療後に傷が残らない |
※上記の治療成績データは大規模臨床研究に基づいています〔5,16,17〕
レーザー治療は、痛みや治療痕が少ないことがメリットです〔17,18,24,25〕。CO2レーザーでは選択的組織蒸散により精密な切除が可能で、周囲組織への熱損傷を最小限に抑えることができます〔17,24〕。Q-switchedレーザーでは色素選択的破壊により、表面が平坦な病変に対して優れた治療効果を示します〔24,25〕。
ただし、再発リスクが高く、保険適用外で治療費用は全額自己負担になることに注意しましょう。
脂漏性角化症の治療法(3)外科的治療(保険適用)
脂漏性角化症の治療法として、外科的治療もあります。
外科的治療では、メスでの切除や電気メスでの電気焼却などの方法が取られます。ただし、再発リスクが高く、治療痕が残る可能性もあるので最初から勧められることは少ないです。
悪性腫瘍が疑われる場合には外科的治療が検討されることもあります。
脂漏性角化症はイボコロリ(市販薬)で取れる?脂漏性角化症の薬とは
脂漏性角化症は「イボコロリ」などの市販薬では取れません。
イボは通常、ウイルスによって発症します。しかし、脂漏性角化症は皮膚にできる良性腫瘍のため、厳密にはイボではありません。
脂漏性角化症に効果が期待できる薬はないため、自分で治療することは難しいです。
薬で治療しようとせず、医師の診療を受けましょう。
脂漏性角化症は防げる?脂漏性角化症の予防方法とは
脂漏性角化症を防ぐためには、紫外線を避けることが大切です〔4,8,12〕。疫学研究では、生涯紫外線暴露量と脂漏性角化症の発症率に強い相関関係が認められており、日焼け止め(SPF30以上)の定期使用により発症リスクを約40-50%低減できることが報告されています〔4,8〕。
年齢が若い方でも、屋外でのスポーツや作業を行う時には日焼け止めを露出部に塗りましょう。
なお、屋内にいる時は低刺激タイプの日焼け止めを塗ることが推奨されています。
悪性転化の可能性
脂漏性角化症の悪性転化は極めて稀ですが、急速な変化(急激な増大、潰瘍形成、色調変化)が見られた場合は注意が必要です〔1,12,15〕。
また、多発性脂漏性角化症(Leser-Trélat徴候)は内臓悪性腫瘍の皮膚症状として知られており、この場合は内科的精査が推奨されます〔12,15〕。
脂漏性角化症の疫学・発症頻度
脂漏性角化症は最も頻度の高い良性皮膚腫瘍で、年齢とともに発症率が急激に上昇します〔2,4〕。
40歳以上では約80%、60歳以上では約90%、80歳以上では100%近くの人に何らかの脂漏性角化症が認められます〔4,8〕。
性別による差はほとんどありませんが、日光暴露の多い職業(屋外労働者など)では発症率が約2-3倍高くなります〔8〕。地域別では、紫外線強度の高いオーストラリアや南欧で特に高い有病率が報告されています〔4〕。
ダーモスコピー診断と鑑別診断
ダーモスコピー(皮膚鏡)は脂漏性角化症の診断において必須の検査法です〔11,13,14,22〕。典型的な所見として、脳回様パターン(gyrus-like pattern)、コメド様開口部、粟粒様嚢胞、角栓が挙げられます〔11,22〕。
これらの所見により、悪性黒色腫、基底細胞癌、色素性母斑との鑑別が可能となります〔13,14〕。ダーモスコピー診断により、肉眼診断と比較して診断精度が約20-30%向上することが報告されています〔14〕。
脂漏性角化症の分子生物学的機序
脂漏性角化症の発症には複数の遺伝子変異が関与しています〔3,12〕。
最も頻繁に検出される変異は、FGFR3(約85%)、PIK3CA(約20%)、RAS遺伝子(約15%)で、これらの活性化変異により表皮角化細胞の異常増殖が引き起こされます〔3〕。
また、p16/CDKN2A遺伝子の不活化やWntシグナル経路の異常も病態に関与することが明らかになっています〔3,12〕。
これらの分子生物学的知見は、将来の分子標的治療の開発に重要な示唆を与えています〔3〕。
治療後の経過と長期予後
適切な治療により、脂漏性角化症の予後は良好です〔5,16〕。
液体窒素療法での完全治癒率は約85-90%、CO2レーザー治療では約95%以上と報告されています〔5,17〕。
再発率は治療法により異なり、完全切除では1%以下、表面的治療では5-10%程度です〔5,16〕。
治療後の色素沈着は、液体窒素では3-12ヶ月、レーザー治療では1-3ヶ月で改善することが一般的です〔16,17〕。長期的な悪性転化のリスクは極めて低く、適切な治療により生活の質の改善が期待できます〔12〕。
脂漏性角化症に関するよくあるご質問
脂漏性角化症に関するよくある質問をまとめました。
脂漏性角化症を自分で取るのは木酢液がいいの?
脂漏性角化症は木酢液では取れません〔1,12〕。木酢液には医学的な有効性を示すエビデンスは存在せず、むしろ化学熱傷や接触皮膚炎のリスクがあります〔1〕。脂漏性角化症の治療には、科学的根拠に基づいた医療行為が必要です〔5,12〕。
木酢液とは、炭を焼いた時に発生する煙を冷やして液体にしたものです。90%ほどが水分で、残りは有機化合物で構成されています。
脂漏性角化症は自分で取るのではなく、医師の診療を受けましょう。
脂漏性角化症は若い人にもできるの?
脂漏性角化症は若い人にもできることがあります〔3,12〕。20-30歳代での発症は約5-10%と報告されており、家族歴がある場合や紫外線暴露の多い環境では発症リスクが高くなります〔3,8〕。遺伝的素因と環境要因の両方が発症に関与します〔3〕。
若い人にできる脂漏性角化症は、遺伝の影響が大きいと考えられており、首やこめかみ、腹部などによく発症します。
東京で脂漏性角化症の治療ならアイシークリニックへご相談ください
脂漏性角化症は「老人性イボ」とも呼ばれる皮膚疾患です。ウイルス性のイボではないため、市販薬や漢方は効果が期待できません。
放置しておくと進行し、肥大化する場合があるため早めに医師の診療を受けましょう。
アイシークリニックは、老若男女どなたでも相談しやすいクリニックを目指しています。
どんな症状であっても、患者様と相談しながら治療方法を提案させていただきますので、イボに少しでもお悩みの方は、アイシークリニックにご相談くださいませ。
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